自然の速度を思い出す 第三篇 自然のリズムと人のリズム
― 四季に生きる日本人の知恵 ―
私たちのからだも、心も、
もともとは自然の中に流れるリズムと同じようにできています。
朝になれば陽が昇り、夜になれば月が照らす。
春に芽吹き、夏に実り、秋に静まり、冬に休む。
それは決して教えられて覚えるものではなく、
太古から、いのちの奥に刻まれている自然の拍動。
けれど現代の私たちは、その音を聞き逃してしまうことが多くなりました。
時計や予定に支配される日々の中で、
「自然のリズム」と「人のリズム」の間に、
いつしか小さなずれが生まれています。
一日のリズム ― 陽と陰の呼吸に合わせて
東洋医学では、一日の中にも陰陽の流れがあります。
朝は陽が生まれ、昼に満ち、夕に沈み、夜は陰が深まる。
かつての日本人は、この流れの中で暮らしていました。
朝は鳥の声で目覚め、身体をほぐし、
昼は働き、夕には火を囲み、夜は静かに休む。
それはとても自然な呼吸のような生活でした。
現代では、光と情報が絶えず動き、
夜にも陽の気が満ちてしまうような生活になっています。
だからこそ今、私たちが取り戻したいのは、
「陽と陰の間でゆっくり呼吸する暮らし」です。
一年のリズム ― 四季の声を聴く
日本の自然は、四季の移ろいが豊かです。
春の風、夏の蝉、秋の月、冬の雪――
そのひとつひとつに、からだを整える知恵が宿っています。
| 季節
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からだと気持ちのリズム
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養生
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| 春
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体も気持ちものびやかに動き出す
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体を軽く動かす
抑え込まずに気持ちの発散をする
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| 夏
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陽気が盛んで
体の活動性が最大化 気持ちが外へ向く
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冷やしすぎないこと
感情を穏やかに保つこと
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| 秋
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気持ちが落ち着く方へ向く
発散していた体のエネルギーが穏やかになり内へ向き始める
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深呼吸を多くする
ゆっくり体を動かす
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| 冬 | 体のエネルギーが内にこもり体内環境の維持をする
春のためにエネルギーを蓄える |
早寝遅起き
体を温める 気持ちを穏やかにする |
こうして季節の声に耳を傾けながら暮らすことは、
自然とともに生きる日本人が古くから守ってきた調和の知恵です。
人生のリズム ― 四季を生きるように
人生にも、四季のような巡りがあります。
芽吹き、花開き、実り、静まる。
若いときには春のような勢いがあり、
働き盛りには夏のような力がある。
秋には深まりと収穫が訪れ、
冬には静けさの中に知恵が宿る。
老いることは衰えることではなく、
いのちの循環が次の形へと移ること。
この感覚を受け入れるとき、
私たちは自然とともに穏やかに生きられるのだと思います。
おわりに
人のリズムとは、自然の拍動の中にある。
それは、陽と陰が交わり、
四季がめぐるように生きること。
自然のリズムに即して生きるというのは、
「特別なことをする」というよりも、
自分のいのちの速度を思い出すことです。
春に芽吹く木のように、
秋に静まる風のように、
そのときに合った呼吸をしていけば、
からだもこころも、自然と整っていくでしょう。
